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最高裁判所第三小法廷 昭和46年(あ)1901号 判決 1973年3月20日

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人の上告趣意のうち判例違反の所論について。

所論引用の当裁判所昭和四二年一一月八日大法廷判決(刑集二一巻九号一一九七頁)は、「所論所得税、物品税の逋脱罪の構成要件である詐偽その他不正の行為とは、逋脱の意図をもつて、その手段として税の賦課徴収を不能もしくは著しく困難ならしめるようななんらかの偽計その他の工作なうことをいうものと解するのを相当とする」とし、したがつて、かかる工作を伴わない単なる所得不申告は、右「不正の行為」にあたらない旨判示しているところ、真実の所得を隠蔽し、それが課税対象となることを回避するため、所得金額をことさらに過少に記載した内容虚偽の所得税確定申告書を税務署長に提出する行為(以下、これを過少申告行為という。)自体、単なる所得不申告の不作為にとどまるものではなく(当裁判所昭和二五年(あ)第九三一号同二六年三月二三日第二小法廷判決・裁判集刑事四二号登載参照)、右大法廷判決の判示する「詐欺その他不正の行為」にあたるものと解すべきである。したがつて、これと同趣旨の見解のもとに、被告人の本件各過少申告行為自体をもつて昭和四〇年法律第三三号による改正前の所得税法六九条一項にいう「詐偽その他不正の行為」にあたるとした原判決は、正当であり、なんら所論引用の右判例と相反する判断をしたものではない。所論は理由がない。

その余の所論について

所論は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない(なお、第一審判決が被告人を懲役六月および罰金二百万円に処し、罰金を完納しないときは一万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、裁判確定の日から二年間懲役刑の執行を猶予するとの言渡しをしたのに対し、被告人のみの控訴に基づき、原判決が量刑重きに過ぎるとして第一審判決を破棄し、被告人を罰金四百万円に処し、罰金を完納しないときは二百万円を一日に換算した期間労役場に留置するとの言渡しをしたことは、刑訴法四〇二条に違反するものと解することはできない。)。

よつて、刑訴法四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(江里口清雄 関根小郷 天野武一 坂本吉勝)

上告趣意<略>

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